Agreement in Principleから Mortgage Offer まで 〜固定期間の選び方と、ERC という見えない罠〜

第3回で、イギリスの住宅ローン(Mortgage)が日本とどう違うかを書きました。今回は、実際に借りるところまで進んだ後の実務です。

日本の住宅ローンと最も違うのは、「35年借りるが、金利は2〜5年しか決まらない」という構造です。ここを理解しないと、条件の良し悪しが判断できません。

AIP は約束ではない

AIP(Agreement in Principle、または DIP: Decision in Principle) は、収入と信用情報の簡易確認に基づく「この程度なら貸せそうです」という事前の目安です。

  • 通常、ソフト与信照会で行われるため、信用スコアへの影響は小さい
  • 数分〜数時間で出ることが多い
  • 有効期限がある(一般に30〜90日)

イギリスでは、AIP を持っていないとオファーを真剣に受け取ってもらえないのが実情です。エージェントは必ず “Are you in a position to proceed?” と聞いてきます。買える証拠を持っているかどうかが、オファーの通りやすさに直結します。

ただしAIP は融資の確約ではありません。 本申込で書類を精査した結果、条件が変わることも、否決されることもあります。


本申込から Mortgage Offer まで

オファーが通ったら、本申込(Full Application)に進みます。ここで提出するのは概ね:

  • 直近3ヶ月分の給与明細
  • 直近3〜6ヶ月分の銀行取引明細
  • 雇用契約書、または雇用主からのレター
  • ボーナス・コミッションがある場合はその履歴(通常、変動収入は全額ではなく一定割合しか算入されません
  • 在英資格(ビザのステータス)
  • 頭金の出どころの説明

【外国籍の方向けの注意】在留資格は審査に直接影響します。 ILR(無期限居留許可)がない場合、レンダーによっては LTV の上限を下げる、あるいは残存ビザ期間の要件を設けることがあります。取り扱いはレンダーによって大きく違うため、ここはブローカーの知見が最も効く領域です。

その後、レンダーが Valuation(担保評価) を行い、問題がなければ Mortgage Offer(正式なオファー) が発行されます。これが出て初めて、Exchange に進めます。


リモートバリュエーションの実際

前回の記事でも触れましたが、私たちのケースでは、レンダーの評価は訪問なしのリモート評価で、申込価格どおりの評価額が返ってきました。所要日数はごくわずかです。

【重要】ここで正しく理解すべきは、リモート評価は「担保として妥当か」の判定であって、建物の状態の保証ではないということです。

  • 評価額が申込価格どおりに出た=銀行が担保価値として認めた
  • 建物に構造的な問題がない、という意味ではまったくない

一方で、バリュエーションのレポートに評価者のコメントが付くことがあります。これは読む価値があります。銀行が担保価値の観点で気にした点(例:改装履歴、構造、隣接する用途、再販性)は、買主が気にすべき点と重なることが多いからです。

ただし、これは Survey の代わりにはなりません。 目的が違います。


LTV の「崖」を理解する

LTV(Loan to Value、物件価格に対する借入比率) は、金利を決める最大の変数です。そして連続的ではなく、階段状に効きます。

一般的な区切りは、60% / 75% / 80% / 85% / 90% / 95%

つまり、LTV 90.1% と 89.9% では、適用される金利が一段変わる可能性があるということです。

頭金の額を決めるときは、「いくら出せるか」ではなく「どの LTV の区切りに乗せられるか」から逆算するのが正しい順序です。

なお、私たちのケースは LTV 90%、返済期間35年の元利均等返済でした。


固定期間をどう選ぶか

イギリスのローンは、返済期間(Term)金利の固定期間(Initial Period) が完全に分離しています。

  • Term:35年(総返済期間)
  • Initial Period:2年・3年・5年など、この期間だけ金利が固定される

固定期間が終わると、SVR(Standard Variable Rate、標準変動金利) に自動的に移行します。SVR は通常かなり高いので、期間終了前に別の商品へ乗り換える(Remortgage)か、同じ銀行内で条件を切り替える(Product Transfer)のが標準的な行動です。

つまり、イギリスの住宅ローンは 「数年ごとに乗り換える前提の商品」 です。日本の「35年固定を組んで終わり」とはまったく思想が違います。

私たちが選んだのは、約5%(4.99%)で、2028年末までの固定という条件でした。

固定期間の選び方の考え方

短め(2年)を選ぶ理由

  • 金利が今後下がると考えている
  • 数年以内に引っ越し・売却・借り換えの可能性がある
  • LTV が高い状態で借りており、数年後に LTV が下がって条件が改善する見込みがある(← これが実は大きい)

長め(5年)を選ぶ理由

  • 支払額を長く確定させたい
  • 金利が今後上がると考えている
  • 数年ごとの借り換え手続きと手数料を避けたい

【参考】高 LTV で借りた場合、返済と物件価格の上昇の両方で LTV が下がるため、次回の借り換え時に条件が改善する可能性があります。 そう考えるなら、固定期間を短めに取るのは合理的な選択になり得ます。ただし、金利が上がっていれば逆に不利になります。ここは誰にも予測できないので、賭けであることは認識しておくべきです。


ERC ー日本人が最も軽視する条項

ここが本題です。ERC(Early Repayment Charge、早期返済手数料)

固定期間中に、規定を超える返済や、ローンの完済(=物件の売却や借り換え)を行うと、違約金が発生します。

典型的には、残債の1〜5%。固定期間の初期ほど率が高く、年を追うごとに下がる設計が一般的です。

多くの商品では、年間10%までの繰上返済は ERC なしで認められています(Overpayment Allowance)。ただし上限も、起算日も、計算方法も商品ごとに違うので、契約書で確認が必要です。

ERC が実質的に意味すること

固定期間の終了日まで、あなたはその物件に経済的に縛られます。

これは単なる手数料の話ではなく、ライフプランの制約です。

  • 転勤が決まったら?
  • 家族構成が変わって手狭になったら?
  • 事業を始めるために資金を動かしたくなったら?

固定期間の長さを決めることは、「この期間は動かない」と決めることとほぼ同義です。 私自身、この意味を理解するのに時間がかかりました。金利の数字だけを見比べていると、この制約が視界に入ってきません。

なお、多くの商品には Porting(ポータビリティ):引っ越し先の物件に同じローン条件を持ち運べる仕組み、が付いています。ただし新物件と新しい審査条件が承認されることが前提なので、確実な逃げ道ではありません。


ブローカーを使うかどうか

イギリスでは、Mortgage Broker(住宅ローン仲介) を使うのが一般的です。私たちも使いました。

使う利点

  • 複数のレンダーの商品を横断的に比較できる
  • ブローカー限定の商品にアクセスできることがある
  • 外国籍・変動収入・自営業など、条件が標準的でないケースで知見が効く
  • 書類の不備を事前に潰してくれるので、審査の往復が減る

注意点

  • 手数料の有無と金額を最初に確認する(無料のところも、£300〜£1,000 程度取るところもある)
  • Whole of market(全市場)を見ているのか、提携先に限定されているのかを確認する
  • ブローカーはレンダーからも手数料を受け取っていることがある。利益相反の構造は理解しておく

参考までですが、外国籍で在英年数が長くない場合、ブローカーの価値は特に高いと感じました。どのレンダーがどのビザステータスにどう対応するかは、公開情報からは読み取れないためです。


まとめ

  • AIP は融資の確約ではないが、オファーを通すには実質必須
  • リモートバリュエーションは担保評価であって、建物の保証ではない
  • LTV は階段状に効く。頭金は「出せる額」でなく「どの区切りに乗るか」から逆算
  • イギリスのローンは Term(35年)と固定期間(2〜5年)が分離した、乗り換え前提の商品
  • ERC は固定期間中の行動を縛る。金利だけでなく、その期間動けないことを受け入れるかで判断する
  • 条件が標準的でないなら、ブローカーの価値は高い

本記事は筆者個人の体験と公開情報に基づくもので、住宅ローン・金融商品の助言ではありません。金利・商品条件は時期とレンダーにより異なります。実際の借入にあたっては FCA 登録の助言者にご相談ください。

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