Fixtures と Chattels 〜「家具付きで買う」交渉を、個別値切りにしてはいけない理由〜

契約書一式(Contract Pack)が届くと、その中に TA10(Fittings and Contents Form) という書類が入っています。A4で数枚、部屋ごとに項目が並び、各項目に「Included(含む)/ Excluded(含まない)/ None(該当なし)/ Price(有償で譲渡)」のいずれかが記入されています。

地味な書類ですが、ここを読み違えると、引き渡し当日に照明器具が全部外されているということが実際に起こります。

Fixtures と Chattels の区別

イングランド法には、Fixtures(不動産に付合したもの)Chattels / Fittings(動産) という区別があります。

FixturesChattels
性質土地・建物の一部とみなされる独立した動産
原則売買価格に含まれ、物件と一緒に移転する含まれない。売主が持ち去ってよい
造作キッチン、ビルトインの給湯設備、洗面台、暖房ラジエーター、造作棚家具、冷蔵庫(据置型)、カーテン、鉢植え

区別の基準は、判例上おおむね次の2点です。

  1. 付合の程度(Degree of Annexation):どれだけ建物に固定されているか。自重で置いてあるだけなら動産寄り、ネジ・配管・配線で固定されていれば不動産寄り
  2. 付合の目的(Purpose of Annexation):建物を恒久的に改善するために取り付けられたのか、それとも単にその物を使うために固定しただけか

判断が割れやすいもの

  • ビルトインオーブン・食洗機:キャビネットに組み込まれ、電気・給排水に接続されている場合、Fixture と扱われるのが通常。ただし争いになりうるので、TA10 で明示を求めるべき
  • 据置型の冷蔵庫・洗濯機:置いてあるだけなら Chattel
  • カーテン:カーテンレールは Fixture、カーテンそのものは Chattel、というのが一般的な整理
  • 照明器具:シーリングローズ(天井の配線受け)は Fixture、ペンダントライトの器具は Chattel とされることが多い。「照明ごと全部外された」という話が出るのはここ
  • 庭の植栽:地植えは Fixture、鉢植えは Chattel
  • 物置・小屋:基礎に固定されていれば Fixture、置いてあるだけなら Chattel

「常識で判断できる」と思わないことです。 私も最初はそう思っていましたが、TA10 を実際に読むと、想像と違う項目がいくつもありました。


TA10 の読み方

実務上、確認すべきは次の3点です。

1. Excluded になっている項目のうち、Fixture のはずのもの

売主が「持っていく」と書いていても、それが法的に Fixture なら本来は価格に含まれるべきものです。ここは Solicitor 経由で確認を求める価値があります。

2. 空欄・記入漏れ

意外に多いです。空欄は「合意がない」状態なので、後から揉める種になります。埋めてもらいましょう。

3. Price 欄に金額が入っている項目

売主が「これは有償なら譲る」と示している項目です。ここが交渉の対象になります。


動産の買い取り交渉:実際にやったこと

私たちのケースでは、売主が海外へ移住する予定で、家財を持っていけない事情がありました。こういう状況は、買主にとって有利に働きます。

売主にとって、家具の処分はコストと手間です。処分業者に頼めば費用がかかり、個別に売れば時間がかかる。「まとめて引き取ってくれる買主」には、市場価格より安く譲る合理性がある。これが交渉の前提でした。

私が提示したのは、複数のアイテムをひとまとめにした £500 のパッケージでした。中古市場の相場を個別に調べると、合計の推定価値は £1,240 程度。つまり約4割の水準です。

大幅に安い提示ですが、根拠はあります。売主にとっての選択肢は「£500 で全部消える」か「時間をかけて売る/費用を払って処分する」かの比較であって、「£1,240 で売る」ではないからです。


売主の反応と、交渉の再設計

売主からの返答は、「価値の高いものは先に個別に売りに出す。残ったものについて改めて連絡する」でした。

これは予想の範囲内です。売主も同じ計算をしている。価値の高い数点を個別に売れば、パッケージ全体より高く回収できるからです。

ここで重要なのが、この後の交渉をどう組み立てるかです。

正しい返し方:パッケージの再スコープとして扱う

「価格の交渉」ではなく「パッケージ構成の変更」として扱います。

「当初の £500 は、複数のアイテムをまとめて引き取ることを前提とした金額でした。点数が減るのであれば、同じ考え方で金額も比例して調整させてください。」

この立て方には3つの利点があります。

  1. こちらの提示が値切りではなく、一貫した計算に基づいていたことを示せる
  2. 売主が高価値品を抜くたびに、こちらの支払額が自動的に下がる——抜くことのコストを売主側に負わせる
  3. 交渉が感情的にならない。ルールの適用であって、押し引きではないため

個別の品を一つずつ値切ると、こちらが「欲しがっている」情報を渡すことになります。 パッケージとして扱う限り、こちらは「まとめて処理する利便性」を買っているのであって、特定の品を欲しがっているわけではない、という立場を維持できます。


期限を切る

もう一つ実務的に重要なのが、いつまでにこの話を決着させるかです。

家具の話は、Exchange や Completion の日程と比べれば些末な論点です。些末な論点は、放っておくと最後まで残り、決済直前に慌てて処理することになります。

私たちは、Completion の日程を詰め始める前に決着させるという時期を自分の中で設定しました。理由は2つ。

  1. 家具の有無で、引っ越し当日の段取りが変わる(何を買い足す必要があるか)
  2. 決済直前は、他により重要な論点が集中する。そのときに家具の話をしていたくない

なお、動産の代金は通常、契約価格とは別に扱われます。 ここには実務上の意味があります。動産の対価は SDLT の課税対象ではないためです。

【重要】ただしこれは「動産の価格を過大に設定して契約価格を圧縮する」ことが許されるという意味ではありません。 HMRC は、動産に合理的な公正価値が付されていることを求めます。実態と乖離した配分は問題になり得ます。動産の対価は、あくまで実際の中古価値に基づいて設定すべきです。この点は必ず Solicitor に確認してください。


引き渡し当日のリスク

最後に、実務上のリスクを一つ。

TA10 で Included とされていたものが、引き渡し時になくなっている。 これは残念ながら起こります。

対策は次のとおりです。

  • Completion 前の最終確認(Pre-completion Inspection) を行う。多くのエージェントは応じてくれます
  • 内覧時の写真を残しておく。何がどこにあったかの記録になります
  • 発覚した場合は Solicitor 経由で対応する。ただし、鍵を受け取った後の回復は現実的に難しいのが実情です

まとめ

  • Fixtures は価格に含まれ、Chattels は含まれない。判断基準は固定の程度と目的
  • 照明器具、カーテン、ビルトイン家電は争いになりやすい。TA10 で明示を求める
  • 空欄・記入漏れは後で揉める。埋めてもらう
  • 動産の買い取りはパッケージで交渉する。個別の値切りにすると、単価が上がり、こちらの選好が漏れる
  • 点数が減るなら比例的に減額する
  • 動産の対価は実際の中古価値に基づいて設定する。過大な配分は避ける
  • 決済直前に持ち越さない。期限を自分で切る

次回は、住宅ローンとセットで必ず提案される Mortgage Protection(生命保険) の話を書きます。


本記事は筆者個人の体験と公開情報に基づくもので、不動産取引・法務・税務の助言ではありません。Fixtures と Chattels の法的判断や、動産対価の税務上の取り扱いについては、必ず Solicitor・税理士にご確認ください。

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