Survey は Level 2 か Level 3 か 〜1930年代築・改装済み物件で Level 3 を選んだ理由〜

イギリスでは住宅の購入に関し、基本的には買主が注意を払い、諸条件を確認する必要があるため、Survey は買主が自分を守る唯一の技術的手段です。

そして最初に潰しておくべき誤解があります。

銀行の担保評価はSurveyではない

住宅ローンを申し込むと、レンダー(銀行)が Valuation(担保評価) を行います。近年は現地訪問すらせず、公開データと成約事例から機械的に評価する Remote Valuation(リモート評価) で完了することが増えています。

私たちのケースでも、レンダーのバリュエーションは訪問なしで、申込価格どおりの評価が返ってきました。数日で終わりました。

しかしこれは、「その値段でその物件を担保に取れるか」を銀行が自分のために確認しただけです。

  • 買主のための調査ではない
  • 建物の欠陥を探していない
  • 屋根裏にも床下にも入っていない
  • 「評価額が出た=建物に問題がない」ではまったくない

【重要】バリュエーションのレポートには、担保上の懸念が「コメント」として付くことがあります。このコメントは読む価値があります。

銀行が担保価値の観点から気にした点は、買主が気にすべき点と重なることが多いからです。ただしそれはあくまで副産物であり、目的が違う以上、これを Survey の代わりにはできません。


RICS の3つのレベル

RICS(英国王立チャータード・サベイヤーズ協会)が定める Home Survey は3段階です。

Level 1Level 2(旧 HomeBuyer Report)Level 3(旧 Building Survey / Full Structural)
対象新しく、標準的な構造で、状態の良い物件一般的な築年数・状態の物件築古、改装・増築済み、非標準構造、状態不安のある物件
深さ目視中心・簡易目視中心+主要要素の状態評価より踏み込んだ調査。原因と修繕方法まで踏み込む
報告内容状態評価(信号色)状態評価+助言欠陥の原因・影響・修繕方法・放置した場合の帰結
費用の目安〜£500£400〜£900£800〜£2,000+

*費用は物件規模・地域による一般的レンジ。実額は見積で確認をしてください。

重要なのは、どのレベルでも「非破壊・目視」が原則という点です。壁を壊したり、床を剥がしたりはしません。Level 3 でも、家具の裏や仕上げの奥は見えません。「Level 3 なら全部わかる」わけではないという事実、これは期待値として持っておくべきです。


私たちが Level 3 を選んだ3つの理由

検討している物件は、1930年代築のセミデタッチドで、ロフトコンバージョン施工済みでした。この条件で Level 2 を選ぶ理由が、私には見つかりませんでした。

理由1:築90年超は「古い」から選ぶのではない

以前の記事で「築年数の感覚を捨てる」と書きました。イギリスでは1930年代築は普通に現役です。築年数そのものは Level 3 の理由になりません。

問題は、90年の間に何度も手が入っている可能性が高いことです。屋根の葺き替え、配管の更新、電気系統の改修、開口部の変更。それぞれが、いつ、誰が、どの基準で行ったか分からない。履歴が不明な改変の累積こそが、深い調査を必要とする理由です。

理由2:ロフトコンバージョンは荷重経路を変える

最上階に居室を増やすということは、建物の荷重が流れる経路が変わっているということです。

特に、後方に張り出した Outrigger(アウトリガー、増築部) が3層分になっている場合、元は2層分の荷重しか想定していない基礎と壁に、3層分の荷重が乗っている可能性があります。

そこで確認すべきは、

  • ロフト新設時に、下層の壁・基礎の補強が行われたか
  • 1階の間仕切り壁が構造壁(load-bearing)か非構造壁か
  • 過去に壁の撤去や開口の拡大が行われている場合、適切なまぐさ(lintel)や鉄骨(RSJ)が入っているか

これらは目視だけでは断定できないことも多いですが、「確認すべき論点として報告書に残す」こと自体に価値があります。

理由3:階段吹き抜けと火災安全

ロフトコンバージョンで見落とされがちなのが、Building Regulations Part B(火災安全) です。

住宅が3層(地上階・1階・ロフト)になると、避難経路の防火要件が2層の場合より厳しくなります。 一般に、階段室が各階で防火区画され、各室から階段室へ通じる扉が防火扉(FD30)であること、煙感知器が連動していること等が求められます。

ここで問題になるのが、ダイニングやリビングが階段室に対して開放されている間取りです。開放的で魅力的な間取りほど、3層住宅の防火要件と衝突しやすい。既存不適格として扱われるのか、是正が必要なのかは、施工時期・適用規則・自治体の判断によります。


調査会社をどう選んだか

サーベイヤー選びで私が重視したのは、価格ではなく次の1点でした。

構造エンジニアが社内にいるか。

理由は単純です。Level 3 で構造的な懸念が指摘されると、多くの場合レポートには「構造エンジニアによる詳細調査を推奨する」と書かれます。そこから別会社を探して、日程を取り、追加費用を払い、また待つ、この往復で2〜3週間、簡単に飛びます。

Exchange 前の不安定な期間に2〜3週間を失うのは、単なる不便ではありません。その間にも売主は他のオファーを受けられるからです。

社内に構造エンジニアがいれば、懸念の切り分けをワンストップで進められる可能性が高い。数十ポンドの価格差より、この時間価値のほうがはるかに大きいと判断しました。

そのほかの選定基準:

  • RICS 登録(当然の前提)
  • その地域・その建築年代の物件の経験(1930年代のセミデタッチド特有の弱点を知っているか)
  • 報告書のサンプルを事前に見せてくれるか(「要専門家調査」を連発するだけの薄い報告書もあります)
  • 調査後に電話で口頭説明する時間を取ってくれるか(ここが実は一番重要。書面には書きにくいニュアンスが出ます)

サーベイヤーへの事前ブリーフを書く

依頼して当日を待つのは、もったいない使い方です。 サーベイヤーは限られた時間で家全体を見ます。事前に論点を渡しておけば、そこに時間を配分してくれます。

私が実際に事前送付した論点は、たとえば以下のような構成です。

  1. ロフトコンバージョンの荷重経路と、下層の補強有無
  2. 1階の特定の壁が構造壁かどうか(撤去・開口の履歴があるなら、まぐさの有無)
  3. 3層化に伴う Part B(火災安全)の適合状況
  4. ソリッドブリック(無垢煉瓦)壁の湿気・結露リスクと、既存の対策の妥当性
  5. 屋根の残存耐用年数と、直近の修繕履歴との整合
  6. 電気系統(Consumer Unit の年式)とボイラーの年式・点検記録

報告書が出た後にすべきこと

Level 3 のレポートは50〜100ページになることもあり、大半は定型的な記述です。読むべきは次の3つです。

  1. 緊急度が高いとされた項目
  2. 「さらなる調査が必要」とされた項目(=サーベイヤーが判断を留保した箇所。ここが最大のリスク)
  3. 修繕費の見積もりレンジ(記載がなければ、地元業者に概算を取る)

その上で判断は3択です。そのまま進む/価格を再交渉する/降りる。

ここで大事なのは、修繕費の金額そのものより「直せるか直せないか」の区分です。以前の記事で書いた二分法(採光・間取りの骨格・立地は直せない、内装・設備は直せる)は、サーベイ結果の解釈にもそのまま使えます。直せる問題は交渉材料、直せない問題は撤退材料です。


まとめ

  • 銀行の 担保評価 は Survey ではない。買主を守るものではない
  • 築古・改装済み・増築済みなら Level 3。判断材料は築年数ではなく改変履歴の不明さ
  • ロフトコンバージョンは荷重経路と火災安全の2点が最大の論点
  • 調査会社は価格より 構造エンジニアが社内にいるかで選ぶ。時間価値が段違い
  • 事前ブリーフを書き、可能なら立ち会う
  • 報告書は「要further investigation」の項目を最優先で読む

次回は、そのロフトコンバージョンについて。購入前に必ず確認すべき書類を具体的に書きます。


本記事は筆者個人の体験と公開情報に基づくもので、不動産取引・建築・法務の助言ではありません。建物の状態評価は必ず RICS 登録のサーベイヤー・構造エンジニアにご依頼ください。

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