オファーが通ったら、最初に動くのは Solicitor(事務弁護士)です。日本の司法書士+宅建業者の法務部分を合わせたような役割で、イギリスでは買主が自分で選任し、自分で費用を払います。
そして着手の第一歩は、契約書のレビューではありません。買主が何者で、その金はどこから来たのかを証明することです。ここが、日本の住宅購入とは体感が大きく違うところでした。
最初に提出した書類一式
私たちが売主のオファー受理後の数日で提出したのは、以下でした。
事務所によって名称や様式は違いますが、内容自体はほぼ共通のはずです。
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| Buyers Questionnaire | 買主の基本情報、購入目的、居住予定、資金構成の概要 |
| Form of Authority | 不動産エージェント・モーゲージブローカーと直接やり取りする権限を Solicitor に与える委任状 |
| SDLT Questionnaire | 印紙税(Stamp Duty Land Tax)の税率判定に必要な情報。First-time buyer 該当性、他に住宅を保有していないか、イギリスの居住要件を満たすか |
| Joint Ownership Information Sheet | 共同購入の場合の持分の持ち方(後述) |
| 写真付き身分証明 | パスポート、運転免許証等 |
| Searches 費用等の前払い | 数百ポンド規模。これを払うまで調査は発注されない |
加えて、多くの事務所は SmartSearch などの電子的な本人確認(ID Verification)を並行して走らせます。パスポートの読み取りと顔認証で完了することが多く、これ自体は数分で済みました。
ここでの学び:この一式は「揃ったものから小出し」ではなく、性質ごとにまとめて出すのが結果的に速いです。私は一度、関連する書類を先に1枚だけ送って、担当者から「残りが揃ってから処理する」と返されたことがありました。
事務所側は書類を1件のパッケージとして処理するので、分割提出は前倒しにならないどころか、メールでの連絡が1往復増えるだけでした。
Joint Ownership:持分の持ち方は「最初に」決める
共同で購入する場合、イングランドでは所有形態を2つから選びます。これは後から変えられなくはないものの、最初に決めて登記する事項です。
Joint Tenants(合有)
- 持分は分割されず、2人で1つの所有権を持つ
- 一方が死亡すると、自動的にもう一方に全部が移る(Right of Survivorship)
- 遺言の内容に関わらず、生存者に移る
Tenants in Common(共有)
- 持分を明示できる(50:50 でも 70:30 でも可)
- 死亡時は自分の持分が自分の遺産として遺言・法定相続に従う
- 頭金の拠出額が大きく違う場合や、それぞれに別の相続させたい相手がいる場合に選ばれる
夫婦・パートナーで拠出比率が近く、互いを第一の受取人にしたいなら Joint Tenants が素直です。拠出比率が大きく違う場合や、それぞれの家族に残したいものがある場合は Tenants in Common + Declaration of Trust(持分と精算方法を書面化)が検討されます。
Solicitor は選択肢と結果を説明してくれますが、どちらにするかは自分たちで決める必要があります。
一番時間がかかったのは Source of Funds(資金源証明)
これが、外国籍・海外送金歴のある買主にとって最大の関門でした。
イギリスの Solicitor は Money Laundering Regulations の対象事業者です。したがって、購入資金の1ポンド単位まで、出どころを説明可能な形で示す義務を買主に課します。「貯金です」では通りません。
求められたのは、おおむね次の構造です。
- どの口座に、いくら、いつからあるか(通常6ヶ月分の取引明細)
- その資金がどうやって形成されたか(給与、賞与、資産売却、贈与、海外からの送金)
- 裏付け書類(給与明細、雇用契約、売却時の完了報告書、海外口座の明細と送金記録)
海外からの送金がある場合、送金元の国と口座名義まで説明が必要になることがあります。日本の口座から自分名義で送っていれば説明は容易ですが、家族の口座を経由していたりすると一気に面倒になります。
親族からの贈与がある場合:Gift Letter
イギリスでは頭金や諸費用を親から援助してもらうケースが一般的で、これには専用の手続きがあります。Gifted Deposit Letter(Gift Letter) です。
内容は定型で、贈与者が次を宣言します。
- 贈与する金額
- 贈与であって、貸付ではないこと
- 返済を求めないこと
- 物件に対して何らの権利も主張しないこと
最後の一文が実務上の核心です。レンダー(銀行)にとって、贈与者が物件に権利を主張しうる立場だと担保の実行に支障が出るため、ここを明確に切っておく必要があります。
そして Gift Letter だけでは足りません。贈与者自身の Source of Funds 、つまり「親のその金はどこから来たのか」も、通常は口座明細で確認されます。ここまで来ると日本の感覚では驚きますが、レンダーと Solicitor の双方にとって標準的な手続きのようです。
実務上のコツ:Source of Funds Form と Gift Letter はセットで、贈与の着金後に一括提出するのが最も速いです。フォームだけ先に出しても、着金の裏付けがなければ処理は保留されます。逆に着金してから慌てて贈与者に書面をお願いすると、国際郵送や署名の往復で1〜2週間飛びます。
書面のドラフトだけ先に作っておき、着金と同時に出すのが現実的な最適解でした。
SDLT Questionnaire は税率判定そのもの
見落とされがちですが、この1枚が印紙税額を決めます。判定に効くのは主に次です。
- First-time buyer に該当するか(世界のどこかで住宅を所有した経験があれば、原則として非該当)
- 他に住宅を保有していないか(保有していれば追加物件として5%の割増)
- UK居住要件を満たすか(購入前12ヶ月間の英国滞在日数が183日未満だと、非居住者として2%の割増)
なお、税率の詳細は GOV.UK の SDLT ページと HMRC の計算ツールで確認できます。日本に実家名義の物件がある、共同名義で持っている、といった事情は必ず申告してください。 後から発覚した場合の追徴と加算のリスクは、申告する側にあります。
まとめ
- Conveyancing は契約審査より先に、本人確認と資金源確認から始まる
- 提出書類は性質ごとに一括で出す。小出しは早くならない
- Joint Tenants か Tenants in Common かは最初に自分たちで決める事項
- Source of Funds は6ヶ月分の明細+形成過程の説明。海外送金があるなら早めに準備
- Gift Letter は「貸付ではない・権利を主張しない」を明記し、着金後に資金源書類とセットで提出
次回は、Searches(各種調査)で実際に何が分かるのかを書きます。
本記事は筆者個人の体験と公開情報に基づくもので、不動産取引・法務・税務の助言ではありません。手続きの詳細は事務所により異なります。実際の取引にあたっては、Solicitor・税理士等の専門家にご相談ください。


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